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 「アメリカ大統領選挙と日本:アメリカの独善的態度の封じ込め」

                           

 杉田米行

 大阪外国語大学



世界的に注目されたアメリカ大統領選挙が終わった。共和党大統領候補のジョージ・ブッシュは5945万票

の得票数で、5590万票しか得られなかった民主党大統領候補のジョン・ケリーを破った。裁判沙汰になっ

た前回2000年の選挙を上回る接戦が予想されていたが、蓋をあけてみるとブッシュ大統領の完勝だった。

内政面ではブッシュとケリーの間に大きな相違はある。経済面でいえば、ブッシュが減税政策を進め、メディ

ケアなどの医療政策では民営化路線を追求しているのに対し、ケリーは金持ち優遇の減税政策を批判し、

福祉国家の充実を主張していた。しかし、内政面で最大の争点になったのは文化的道徳的側面、アメ

リカ的価値観に関するものだった。ブッシュ大統領は宗教の重要性を訴え、同性による結婚を違法とする

憲法修正を提案するなど、保守的なキリスト教右派の支持をとりつけようとした。一方、ケリーの方は、文

化面で寛容な伝統的民主党の態度を維持していた。結果は、マサチューセッツ州など北東部の州やカリフ

ォルニアなど西海岸のリベラルな州はケリーを支持したが、ケリーは南部の州を獲得することができなかった。

南部こそ保守の牙城となり、ブッシュはじめ共和党保守派の確固たる基盤となっている。



このように、内政面だけを鑑みると、アメリカ社会は分裂した状態にあるように見える。ところが、アメリカの外

交面に目を向けると、ブッシュとケリーの間には驚くべきほどの共通点が見られる。両者は言葉の上では大

きな相違があるように思えるが、世界におけるアメリカの役割に関して根本的な信念を共有しているといえ

る。両者の間で異なる面があるとすれば、それは表面的な外交スタイルだけだといえる。ブッシュとケリー、双

方ともに、ヘゲモニー国家としてのアメリカには国際社会において善悪を明確に判断し、世界に安定をもた

らすために不正を正す義務と特権があると確信している。ヘゲモニーとは、生産・科学技術・金融を含めた

経済面全般、軍事面、国際関係のイデオロギー面における他の列強を寄せ付けないほどの卓越した権

力のことをさす。手段としてブッシュは単独行動と悪に対する先制攻撃を好み、ケリーは同盟国との連帯と

外交交渉の重要性を強調しているに過ぎない。それは程度の差であり、ブッシュ政権下でパウエル国務長

官は精一杯の外交努力を行い、ケリーも世界最強の軍事力を維持し、必要に応じて軍事的手段も辞さ

ない姿勢を保っている。両者ともアメリカがイラクを攻撃することには賛成した。ブッシュは積極的に進め、ケ

リーは慎重な態度をとりながらも、大統領にイラク攻撃の権限を与える決議に賛成した。両者の相違はア

メリカのイラク占領を終える戦術と日程に過ぎないのである。



ブッシュもケリーも「テロに対する戦争」を積極的に進めようとしている。今回の選挙でブッシュが勝利したこと

により、外交スタイルとして、ブッシュ流の単独主義、先制攻撃も辞さずというブッシュドクトリンがますます前

面に押し出される可能性は高まっている。確かにテロリズムは許し難い犯罪であり、アメリカがテロリストを非

難するのも理解できる。しかしながら、アメリカが世界の指導国を自認するのであれば、アメリカがテロの標的

になる原因を探るべきである。なぜアメリカは嫌われるのか。アメリカは国際社会においてとってきた自らの態

度を真摯に自戒するべきである。多民族・多文化国家であるアメリカは国民統合の手段として常に外部に

敵をつくりあげ、自由・民主主義といったイデオロギーを世界に押し付けることで、自国の正統性と存在意

義を強調してきた。国内の多様性と統合を維持するために国外のイデオロギー的、文化的、政治的相違

に不寛容になるのである。そのようなアメリカの独善性を受け入れることは難しい。世界はアメリカが持つ世

界最強の軍事力に対して畏怖の念を抱くが、喜んで心から師事したいと考えるリーダーとは考えていない。

アメリカにはハードパワーはあっても、世界の人心を把握する「ハートパワー(思いやりの心)」が欠如している。



戦後の日本外交はアメリカの世界戦略に従属するものであった。イラク、アフガニスタン、北朝鮮などにおい

て、日本はアメリカの方針に従い、経済的・軍事的貢献をしている。主体的外交政策をとることができない

日本は益々アメリカに利用されるだけである。今回の大統領選挙の結果に関わらず、米国政府は今後も

外交・安全保障政策において日本をアメリカに従属させようとする。他方、中国は高度経済成長を基盤と

し、北朝鮮の核開発問題で指導力を発揮し、初めて東アジアの安全保障会議を主催した。さらに、中国

・ASEAN自由貿易地域、ASEAN+1首脳会議(中国)、ASEAN+3首脳会議(中国、日本、韓国)、

ASEAN10カ国に中国、日本、韓国を加えた「東アジア自由貿易圏」の提唱など積極的な外交政策を

繰り広げ、アジア太平洋地域における指導力を発揮している。日本の進むべき道は、中国を中心としたア

ジア太平洋諸国との協力体制を強化することによって、アメリカへの依存度を低め、アメリカの独善的単独

行動を封じ込めていくことである。


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