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車 窓
第6回
 

世の中は良い方向に進んでいる」 

 山田 修 (フリージャーナリスト) 


 京都・清水寺の管主が筆をしたためる、年末恒例の今年の言葉に「命」が選ばれた。最も大切

であるべき命が軽んじられる事件が多発し、2006年は改めて命の重みを感じた年だった。

 年間3万人を超す自殺者、いじめによる子供の自殺、経済の破綻による中高年の自殺、子が親

を殺す、親が子供を虐待死させる、介護疲れで年老いた親を殺す、なんともやりきれない事件が

多すぎる。

 年金制度の崩壊が言われ、健康保険制度もほころびを見せ始めている。健康保険料が払えず、

病気になっても治療を受けられない人たちが増え、彼らは「俺たちに死ねと言うのか」と不満をぶ

ちまけている。

 命が軽くなっている。格差社会が拡がり、下の社会の人たちは夢も希望もない生活に追いやら

れている。

 こんな社会にだれがしたのか?

 答は政治家でもない、官僚でもない、経済界でもない、つまるところ、私たち自身が住みにくい

社会にしているのだ。閉塞的な日本社会を打破し、生き抜いていくには、私たち自身が努力し、

頑張っていくしかない。

 暗いニュースが新聞やテレビ等を席巻した一年だったが、世の中が良くなっていく兆しが見え

始めた一年でもあったような気がする。

 まず、飲酒運転防止の強化。今年の8月、福岡県で公務員が飲酒運転する車に追突された親

子5人が乗っていた車が橋から川に転落、幼い3人の兄弟が死亡した事故がきっかけになり、飲

酒運転に対する目が厳しくなった。

 飲酒運転は未成年者の飲酒、喫煙と同様、大きな問題を起こさなければ、黙認する空気が残

念ながら日本の社会にはあった。仲間うちの飲み会で、飲酒運転をしようと思っている人に対し

て、注意するのは何となくはばかられた。それが今年の8月以降は「飲酒運転をしてはいけない」

と堂々と言える状態になった。

 国道沿いに立ち並ぶ飲食店に車を運転して、客が次々と入っていく。徒歩やタクシーで来る客

はほとんどいない。夜になると、大半の客はアルコール類を注文する。なぜ、こんな状態がまか

り通るのか? 世間が、警察さえも飲酒運転を黙認していると言っても過言ではなかった。

 どんなことがきっかけであろうと、社会が本格的に飲酒運転撲滅に動き始めたのは社会が良い

方向に向かっている一つの証しである。飲食店でも客に車を運転させないために、タクシーの割

引券を渡したり、代行運転の車を手配するサービスを実施したりしている。

 その前の6月に駐車違反の民間委託が可能になる道交法が施行されて以来、道路の駐車車

両も目だって減ってきている。宅配業者など仕事上やむを得ず、道路上に駐車する場合でも容

赦なく駐車違反を摘発するなど問題点もあるが、駐車車両の減少で交通事故の危険性も少なく

なっているように見える。

 一見悪いニュースに思えるものでも、良い方向への兆しと取れるものも少なくない。建設談合汚

職で相次いで逮捕された、福島、和歌山、宮崎の知事の事件。私が30数年前に滋賀県のテレビ

局に就職して数年後に「西の田中金脈事件」と言われた「上田建設事件」が滋賀県で起きた。県

幹部と地元建設業者が癒着して、土地を高値で県の都市開発公社に転売して建設業者が不正

に利益を得た事件だ。その後、この種の行政と建設業界の癒着を根絶する対策が立てられたに

もかかわらず、いまだに行政が談合に関与していたのはあきれるばかりである。

 しかしながら、今回の談合摘発は行政と建設業者癒着の膿みを出す良い機会になった。これか

らは裏で行政と建設業者が手を結ぶのは大変困難になり、行政と業界との透明性も増し、住民に

とっては前進であり、良い方向に進んでいると言ってよい。

 関西地方では今年、同和行政がらみの巨大な不正行為が次々と摘発された。横領、詐欺、不

正融資、架空請求等、同和の名を借りた好き勝手な不正行為に、行政が黙って見逃してきたこと

が表面化した。報道を聞いた関西地方の多くの人たちは彼らの不正行為にはあまり驚いていない。

 住民もうすうすは同和関係の不正を知っていたからだ。同和関係で触れてはいけないタブーは

マスコミでも存在しているので、報道されてこなかった。

 その中で奈良県職員が5年で8日間しか勤務せずに給与をもらい、クビにもならず、さらに妻の

会社の仕事で公共事業の入札参加などをしていたことが発覚したときには、想像の枠外をも超え

ていた。

 従来表面化しなかった裏の悪事が、次々と表の世界で暴かれる時代になってきた。悪事を嘆く

より、表面化して、裏の悪事ができなくなったことを私は重視したい。

 裏で隠しおおせたことができなくなったのは社会が良くなる前兆である。昔より社会は悪くなっ

たという声も聞かれるが、制度が厳しくなり、悪事が相次いで発覚する状況は良い方向に進んで

いるとみてよい。

 ボストンレッドソックスに入団を決めた松阪大輔投手は「夢という言葉は好きではない。夢は見

ることができても、かなわないのが夢。信じてこれまでやってきた」とメジャーリガーになった喜び

を語った。

 良い方向に向かっているこの機をつかんで、それぞれの信じているものを2007年に実現しよう

と呼びかけたい。


 

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