第2話

「急いでください!」


 高速道路を走行中、助手席に座っている中年男性のお客さんが、運転している私の方に体を寄せてきた。

どうやら運転席のコックピットの計器類を覗き込んでいるようだ。

 スピードメーターの針は110km/h を指している。

 「もっとスピード出そう!!」

 「えっ!?・・・」 

 「はい!」

 スピードメーターを見ていたようだ。このスピードでは満足しない様子だ。遠距離なので早く帰りたいのであろう。

安全運行を心がけているがそう言われると、ある程度お客さんのご機嫌を損なわせないように少しスピードを上

げる。120km/hで巡航する。常にルームミラーでパトカーが来ていないか後ろを気にしながら、時折追い越し車

線に入り、走行車線の一般車両を追い抜いていく。横目でお客さんを見ると満足そうにしている。


 交通法規を遵守し安全、迅速に旅客を輸送するのがタクシーの使命だ。

この様に運転に注文を付けるお客さんは、たまにいるものだ。また、逆に乗車してくるなり、いきなり言うのである。

「無謀な運転したら許さんぞ!!」こんなお客さんもいるのである。よほど過去に、危険な乱暴運転をする運転手

の車に乗ったのであろう。安全運転を指示するのならともかく「スピードを出せ」、「急いでください」などは、大変

危険であり、事故を誘発させる要因だ。特に朝の通勤時間帯などは、遅刻を恐れて「急いでください」のお客さ

んに結構出会う。また、プロの運転手にとってお客さんからの車線変更の指示や走行方法の指示は不快なもの

である。

 都内の通勤時間帯は、交通渋滞で急ぎたくても急ぐ事はできない交通事情だ。お客さんの指示をまともに受け、

焦ってスピードを出して事故を起こしたり、交通違反をしては何にもならない。結局損をするのは、全て運転手で

ある事を忘れてはならない。

 そこでプロは、お客様のご機嫌を損なわせないように交通法規を守りつつ、急いでいるフリをしなければならな

い。アクセルワークや、ハンドルの切り方、こまめな車線変更等、そしていかにも急いでいるように体を動かしたり

するのである。たまに、溜め息をしてみるのも良いだろう。少しはお客様に誠意が伝わるであろう。しかし・・・・

車は、一向に進まない。

 これは、あくまでも例外の事例である。安全運行と交通法規遵守をお客様に説明し毅然とする態度も必要だ。



 この様に、タクシードライバーの仕事ほど高度なものはない。安全運行と接客をしなければならないのである。

乗っているものは荷物ではない、生身の人間だ。お客様の性格も千差万別で、酔客ともなると二重人格に変

貌するお客さんも多い、トラブルなく無事お送りすることがプロの仕事だ。まさにホテルマン並みの接客も要求さ

れると言っても過言ではない。

 とにかく、プロの運転手に「急いでください」は、最も神経の使う厄介な歓迎されないお客様だ。「どうか、お

早めに家を出てください」と言いたい。しかし、「急いでいるからタクシーに乗っているのだ!」と言われれば、

確かにその通りなので一言も無い。




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